【旅と音楽】ぐるぐると回るさまを見つめながら

「ねぇねぇ、クオータードル持ってる?」と声をかけて集めていたコインは、2週間も過ぎると、クラスメイトが自然と「Ayaka、両替しよう」と言って、クオータードル4枚を私のところに持ってきてくれるようになった。

1ドルと交換したそれらをじゃらじゃらとポケットにいれ、大きなメッシュのかごを引きずりながら、向かうはランドリールーム。

ボストンの音楽大学の夏期講習に参加していた6年前の夏、私は学校の寮に住んでいた。授業やレッスン、セッションでみっちりつまった平日を終えると、金曜日の夜だけは外へ夕食をとりに出かけたりしていたのだが、宿題や勉強は山積みだし、参加したいレクレーションもたくさんあり、週末もなかなか忙しかった。なかでも一週間分ためこんでいる洗濯はわりとひと仕事だった。

今でこそキャッシュレスな世の中だが、当時はコインを入れて洗濯機を動かすようになっており(ランドリーだけはまだまだコインなところも多い印象だが)、しかもクオータードルで1.5ドル、つまりクオータードル(0.25ドル)にして6枚分が必要だ。乾燥機をかけるにも同じだけ要るので、寮に住んでいないクラスメイトに両替してもらっていたのだ。

寮にはたくさんの生徒が住んでいるので、洗濯機は奪い合い。洗濯が終わりそのまま放置しようものなら、勝手に洗濯機から洋服が出されていることもある。それに、貴重な休日を洗濯なんかに時間を取られず有意義に使いたいのはみんな同じだし、少しでも効率よく終わらせたい。

そこで、洗濯が終わってすぐ乾燥機に入れられるように、洗濯機の前に座り込みランドリールームで過ごすことにした。同じように過ごす人も1、2人いた。英語の授業の宿題や音を採りたいジャズの音源を手にしてはいたが、大半の時間はぐるぐると回る洋服を見つめながら考え事をしていた気がする。

クラシック音楽を専攻していた音楽大学を卒業し、ずっと勉強してみたかったジャズを始めて3年ほど経ったその夏は、また頑張ってみよう、と改めて気持ちを強く持った時だった。

時は進み、去年の私もぐるぐると回るさまを見つめていた。6年前と同じように。ただ、見つめているのは洗濯機のなかで回る洋服ではなく、ループステーションだ。2021年の春から始めたループステーションを用いた演奏は相性がよかったらしく、自分がずっとやりたかった音楽の表現ができるようになった。あれよあれよと大きなフェスへの出演が決まり、また、この新しいスタートを頑張ってみようと考えていた去年の夏だった。進んでいるジャンルは6年前とは違えど、この同じような気持ちが懐かしくもあった。

ダウニーの強い香りやランドリールームから見たボストンの青い空、洗濯機の中でぐるぐると回る洋服。そして今はループステーションの赤いランプ。心にあれば、あの時の前向きな気持ちを忘れずにいられる大切なものたちだ。


私の新しいスタート、ループステーションを用いたパフォーマンスを披露したソロライブを2021年12月4日に開催しました。
minimum LIVE track.1 “When it blooms”
https://matsuricoffee.zaiko.io/e/minimumlive-1
▲配信、本日までです!